被相続人名義の売買契約
相談事例(被相続人の相続人(複数)のうち一人Bからの相談)
土地はA名義(相続人の1人)、建物は約40年前建築の被相続人名義であったものを売買契約し、買主名義に所有権移転登記を完了した。
売買契約は、土地のみか土地建物か不明。Bとしては、相続人である自分の了解なしに建物を取り壊し、滅失登記されてしまったのは納得がいかない。買主に対して自分の権利を主張できるか。
なお、売買契約締結前に、A(相続人の一人)からBに対し、建物について相続登記に使用する「特別受益証明書」に署名・押印の要請があったが、Bはこれに応じていなかった。
分析
通常、被相続人名義の不動産(土地・建物)は、相続人名義に変更登記をした後、売買契約を締結するのが基本です。なぜなら、死者は売買契約を締結できず、売買契約の当事者である現に生存する売主・買主を特定する必要があるからです。
今回、売買契約が土地のみなのか、土地建物なのか不明ですが、おそらく、土地のみの売買契約であったと思われます。
建物を売買契約の対象としていたのであれば、相続人名義に変更登記をしなければ契約締結できないため、土地のみであったと思われます。
土地のみの売買であれば、建物は、Aが取り壊し、滅失登記したと思われます。
ただし、建物の取り壊しについては、相続人Bにも相続権がありますので、Aは、Bの了解を取らなければならないはずでした。Bの了解を取らずに取り壊す行為は、「器物損壊罪」に該当する可能性はあります。Bの相続権を害したことにもなります。共有財産を勝手に取り壊す行為は許されない行為です。
民法
民法 | e-Gov法令検索
(共有物の変更)第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
(共有物の管理)第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
Aが単独で建物取り壊しによる建物滅失登記ができる理由は、滅失登記が共有者の一人から申請できるためです。この場合の共有者とは、被相続人の法定相続人が複数いる場合に、これらの法定相続人は共有者と言うことができます。
建物滅失登記は、現に建物が取り壊され、建物が存在していない事実を登記するだけであるので、民法の「保存行為」として共有者の一人から申請できます。
また、建物滅失登記の場合、建物について相続人に名義変更登記をせずに、被相続人名義のままで滅失登記することができます。共有者の一人から滅失登記ができますので、相続人の一人であるAが単独で滅失登記ができることになります。
BがAより建物について相続登記に使用する「特別受益証明書」に署名・押印の要請があったが、Bがこれに応じなかった、Aに書類を提供していなかった、これがA単独で滅失登記をした理由です。
今後、Bの取りうる方法
もはや、建物が取り壊されてしまった後であるため、Bは、Aに対し、Bの相続分を侵害されたことになりますので、建物が存在していた当時の建物の「価格」のうち、Bの相続分に相当する金額を請求することのみだと思われます。仮に、建物が100万円、相続分が4分の1であったならば、25万円をAに請求することになります。
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