処分禁止の仮処分(離婚)と差押(競売開始決定) 

処分禁止の仮処分(離婚)と差押(競売開始決定)

事例
住宅ローンを利用して不動産を購入後、裁判所の離婚手続きに入り、処分禁止の仮処分の登記をなし、その後、住宅ローンの返済が滞り、その抵当権に基づいて競売開始決定の差押が登記された。
最終的に、離婚が成立し、財産分与で所有権移転登記をせよ、という判決が確定した。
手続と登記の順番は次のとおりです。

  1. 所有権の登記
  2. 住宅ローンを利用して不動産を購入したことにより、抵当権設定登記
  3. 離婚手続き(裁判)
  4. 処分禁止の仮処分の登記
  5. 住宅ローンの返済が滞る
  6. 抵当権実行による差押(競売開始決定)
  7. 財産分与による所有権移転登記

このような事例の場合、差押(競売開始決定)の前に、処分禁止の仮処分の登記がなされているので、財産分与による所有権移転登記をした元妻は、その権利を確保できますか。

民事執行法(売却に伴う権利の消滅等)
第五十九条 不動産の上に存する先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権は、売却により消滅する。
 前項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失う。
 不動産に係る差押え、仮差押えの執行及び第一項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない仮処分の執行は、売却によりその効力を失う。
 不動産の上に存する留置権並びに使用及び収益をしない旨の定めのない質権で第二項の規定の適用がないものについては、買受人は、これらによつて担保される債権を弁済する責めに任ずる。
 利害関係を有する者が次条第一項に規定する売却基準価額が定められる時までに第一項、第二項又は前項の規定と異なる合意をした旨の届出をしたときは、売却による不動産の上の権利の変動は、その合意に従う。

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原則は、先に、処分禁止の仮処分登記がなされており、その後、強制競売の申立がされた場合、仮処分が強制競売に優先するときは、競売開始決定をして差押えの登記をし、競売手続を停止し、仮処分または訴訟の結果を待つことになります。

ただし、処分禁止の仮処分の登記の前に、抵当権設定登記がされている場合は、仮処分の執行は、競売による売却によりその効力を失うことになりますので(民執法59条3項)、競売手続は進行します。
これは、仮処分の登記の前に登記された抵当権の登記名義人と競売開始決定の差押の申立人が、同一であることにより、差押が仮処分に対抗できることが登記上明らかであり、仮処分に後れる登記には該当しないからです。

上記の事例で、財産分与による所有権移転登記をした元妻は、その権利を確保できないことになります。
ということで、不動産の財産分与を伴う離婚の裁判手続をする場合、住宅ローンの返済を滞らせないようにする必要があります。

民事執行法(売却代金の配当等の実施)
第八十四条 執行裁判所は、代金の納付があつた場合には、次項に規定する場合を除き、配当表に基づいて配当を実施しなければならない。
 債権者が一人である場合又は債権者が二人以上であつて売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、執行裁判所は、売却代金の交付計算書を作成して、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付する。
 代金の納付後に第三十九条第一項第一号から第六号までに掲げる文書の提出があつた場合において、他に売却代金の配当又は弁済金の交付(以下「配当等」という。)を受けるべき債権者があるときは、執行裁判所は、その債権者のために配当等を実施しなければならない。
 代金の納付後に第三十九条第一項第七号又は第八号に掲げる文書の提出があつた場合においても、執行裁判所は、配当等を実施しなければならない。

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執行裁判所は、各債権者が提出した計算書その他の執行記録に基づき、売却代金交付計算書を作成し、弁済金を債権者に交付し、剰余金があれば債務者に交付します。
この債務者は、差押当時の執行債務者(所有者)であり、その後に債務者の処分行為により所有権を取得した者ではありません。
差押後の所有権移転は、差押の効力により、競売手続との関係では無効だからです。

上記の事例で、財産分与による所有権移転登記をした元妻は、その権利を確保できないし、剰余金があっても受け取ることができず、債務者である元夫が受け取ることになります。

ただし、財産分与(慰謝料など)の金銭の支払いについて執行文付判決書がある場合、配当終期までに配当要求書を裁判所に提出することにより、配当を受けることができます。

いずれにしましても、住宅ローンがある場合、ローンの返済を滞らせてしまいますと、所有権を失うことになりますので、離婚手続きの際は、住宅ローンの返済も考慮して、実際に誰が住宅ローンを返済するかを確認、合意した方がよいでしょう。
少なくとも、上記の例では夫が返済し続けるということであれば、たとえ妻に所有権が移ったとしても、返済が滞る可能性があり、所有権を失う可能性があることを念頭に置いた方がよいでしょう。
離婚裁判で行う場合、この危険性が高いということを覚悟した方がよいでしょう。

そもそも、上記の例では、住宅ローンの抵当権が登記されている場合(債務者が夫)、離婚裁判で、財産分与による所有権移転登記をせよ、という判決を得て、登記をしたからと言って、安心できるものではありません。
なぜなら、債務者が夫名義の住宅ローンの抵当権が登記されている場合、夫が住宅ローンを返済し続けるかどうかは、夫次第だからです。

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