個人間の売買登記(不動産名義変更)の方法
個人間の売買登記(不動産名義変更)とは
個人間の売買登記(不動産名義変更)とは、不動産の売り買いを不動産業者に仲介を依頼することなく、個人間で不動産の売買契約締結から売買代金の授受(支払い・受領)を行い、名義変更(所有権移転登記)することをいいます。
例えば、不動産の売買契約を親子・兄弟姉妹の間で行ったり、隣近所の人同士で行ったり、また、知人同士などで行う場合があります。
これらの個人間で行う不動産の売買契約に基づいて、売買代金の授受後、不動産を登記名義人の売主から買主に名義変更することを「個人間の売買登記」といいます。
個人間の売買登記(不動産名義変更)を行う手順について
(1)売買契約の内容となる不動産そのものを確認
不動産そのものに問題がないかどうかを確認します。
不動産の取引(売買)で、不動産業者が仲介している場合は、主に次の点などについて確認します。これを個人間の売買では、自分(売主・買主)で確認する必要があります。
- 土地について、土地そのものに問題がないかどうかを確認します。
- 市区町村役場の建築課で、土地の容積率や建ぺい率を確認します。
これは、その土地(敷地)にどのくらいの大きさの建物を建築できるかの基準です。
また、売買の対象土地(敷地)に接している私道などがあれば、その土地に建物を再建築できる土地(敷地)であるかどうかも確認します。 - 土地の隣地との境界を確認します。
- 建物については、主に次の点などについて確認します。
① 建物が傾斜していないかどうか。
② 雨漏りがないかどうか。
③ 建物に付属している物品を売買契約の内容に含めるかどうか。
以上を踏まえた上で、現状有姿(現状のあるがまま)で売買するのかを決定します。
(2)不動産の登記されている内容を確認
不動産の登記記録(法務局(登記所)の登記記録情報や登記事項証明書)で、登記されている次の内容を確認します。通常の取引(売買)では、不動産業者が確認します。
これを個人間の売買では、自分(売主・買主)で確認する必要があります。
土地について登記記録の内容を確認
まず、売買契約の対象となる土地を確認します。
敷地全体が一筆(1個)とは限らず、複数ある場合があります。
これ(敷地の土地がいくつあるのか)は、法務局にある「公図」で確認します。
「公図」は必ずしも、現況の土地の形状を正確に現わしているとは限りませんが、一応、隣接土地との関係を確認できます。
登記所にある「地積測量図」には正確な土地の図面があります。ただし、この地積測量図がない土地もあります。
また、公道まで接道している「私道」がある場合もあります。「私道」が複数ある場合もあります。「私道」が「持分」として登記されている場合もあります。
登記名義人の売主が持っている「権利証(登記済権利証または登記識別情報通知)」で不動産を確認・特定します。
以上の土地の位置や数を確認できましたら、一つ一つの土地の登記記録の内容を確認します。
土地の場合は、登記記録にはまず、所在・地番・地目(土地の種類)・地積(土地の面積)が記載されています。
特に、地目(土地の種類)に注意しましょう。土地の地目が農地(田・畑)の場合、農地法第5条の許可が必要となります。この許可は、市区町村役場の農業委員会で手続をします。所有権移転登記(不動産名義変更)では、この許可書(市街化区域では農地法5条届出受理証明書)を法務局に他の書類と一緒に提出します。
固定資産税・都市計画税の納税通知書の2ページ目以降にある「課税明細書」で、登記されている「地積」と課税されている「地積」を確認します。この二つが一致していれば問題ありませんが、一致していない場合は、登記されている「地積」と課税されている「地積」を一致させる「地積更正登記」をするかどうかを検討します。
お金がかかります。土地家屋調査士に依頼。数十万円かかります。
建物について登記記録の内容を確認
建物の場合も、固定資産税・都市計画税の納税通知書の2ページ目以降にある「課税明細書」で、登記されている「床面積」と課税されている「床面積」を確認します。この二つが一致していれば問題ありませんが、一致していない場合は、登記されている「床面積」と課税されている「床面積」を一致させる「建物表題変更(または更正)登記」をするかどうかを検討します。
これは、土地とは異なり、建物建築後、増改築など行っていない場合は、この登記をする必要がありません。この理由は、登記上床面積と課税床面積が多少異なることはよくあることです。この多少異なる理由は、登記できる床面積が課税床面積と異なるからです。
ところが、建物が未登記(登記されていない)の場合や過去に増築があったが増築の登記(建物表題変更登記)をしていなかった場合、通常の取引(売買)では、未登記建物であれば「建物表題登記」と「所有権保存登記」を行い、増築があった場合は、建物表題変更登記をして、現況の建物に合わせる登記をします。「建物表題登記」や「建物表題変更登記」にかかる費用は、構造や床面積にもよりますが、おおよそ10万円ほどです。この登記は、土地家屋調査士が代理申請します。
登記記録(甲区欄・乙区欄)の内容(権利関係)を確認
登記記録情報や登記事項証明書で登記の内容(権利関係)を確認します。
ここでは、前述の「表題部」のほかに「甲区:所有権に関する事項」と「乙区:所有権以外の権利に関する事項」の内容(権利関係)を確認します。
「甲区:所有権に関する事項」では、現在の名義人を確認します。この名義人が売主となるからです。
もし、この名義人が死亡している場合は、相続登記(不動産名義変更)をして売主となる名義人を確定します。
「乙区:所有権以外の権利に関する事項」では、抵当権などの担保権やその他の権利があるかどうかを確認します。これらがなければ問題ありません。
もし、抵当権などが登記されているのであれば、買主への所有権移転(名義変更)登記は完全なものとなりませんので、基本的には売買代金決済(授受)までに抹消登記をする必要があります。
なんらかの事情で抵当権などを抹消できない場合、抹消登記をしなくても所有権移転(名義変更)登記をすることはできますが、この場合、買主がこのこと(所有権移転登記後も、抵当権など所有権を阻害する権利があること)を認識しておく必要があります。
(3)売買代金について
売買代金をいくらにするかを検討します。この売買代金は、基本的に「時価」を基準とします。固定資産税の評価価格を基準とすれば問題ないと考えがちですが、まずは、「時価」がいくらなのかを調べます。
特に、親子間、夫婦間で売買代金を決めるときは、税務署から恣意的と判断される可能性がありますので、「時価」を基準に検討します。
個人間の売買では、売買代金が時価よりも低い場合、税務署は、売主から買主への贈与(差額を贈与税の対象)とみなしますので、注意が必要です。
売買代金については、売買契約締結が不動産仲介業者を通して行われる場合は、この売買代金をいくらにするかは制限がありません。なぜなら、不動産仲介業者は、適正な取引価格を基準に、売買代金を設定しているからです。
個人間の売買では、売買代金をいくらに設定するかは、不動産業者に「査定書」を作成してもらいます。最低でも2社の査定書(費用的には、おおよそ1社当たり1万円です。)が必要です。3社あれば問題ありません。その平均価格を売買代金とします。
(4)売買契約書の作成
以上の内容が確定しましたら、売買契約書を作成します。
売買契約書には、通常、最低限、次の事項を記載します。
- 物件の表示
登記記録に記載されているとおりに記載します。現況が登記記録と異なる場合は、現況も記載します。 - 売買代金
手付金があれば、手付金の額を記載します。 - 売主・買主
- 買主は、売買代金を支払う人であって、便宜的に名前を借りて買主とすることができません。お金を出す人が二人であれば、この二人が買主となります。買主が二人以上となる場合は、それぞれの「持分」を登記することになりますので、買主が共有名義で購入する場合の持分計算を参考にしてください。
- 引渡日
不動産をいついつまでに引き渡すという「引渡日」を記載します。
通常、引渡日までに買主が売買代金を支払います。
通常、売買代金の支払い日を引渡日にします。 - 売買代金全額の支払いが完了したときに所有権が売主から買主に移転する旨
- 抵当権など所有権を阻害する権利がある場合は、これを売買代金決済(授受)までに抹消登記する旨
- 買主への所有権移転(名義変更)登記の費用を買主の負担とする旨
関東圏では、買主への所有権移転登記の費用は、買主の負担とする旨、通常、売買契約書の特約として記載されます。
この特約事項が売買契約書に記載されていない場合、売主と買主折半で登記費用を負担することになります。
もっとも、売主の登記上の住所が現在の住所と相違する場合は、住所変更登記が必要ですが、この費用は売主の負担です。
また、抵当権など所有権を阻害する権利がある場合、これを抹消登記しますが、この費用も売主の負担となります。
(5)売主の税金面について
親族間での売買の場合、税金面(譲渡所得税)も事前に検討した方がよいでしょう。
マイホームを売った時の居住用不動産の譲渡所得税の特例の適用があるのか
通常、居住用不動産を売ったときは、譲渡所得(譲渡益)から最高3,000万円まで控除ができる特例があります。
この特例を適用するには、売主と買主が、親子や夫婦など特別な関係でないことが条件です。
この特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人も含まれます。
国税庁のNo.3302 マイホームを売ったときの特例でご確認ください。
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用があるのか
相続・遺贈によって取得した「被相続人の居住用家屋または被相続人の居住用家屋の敷地等」を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得(譲渡益)の金額から最高3,000万円まで控除することができます。
この特例を適用するには、売主と買主が、親子や夫婦など特別な関係でないことが条件です。
この特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人も含まれます。
国税庁のNo.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例でご確認ください。
譲渡所得税の計算
譲渡所得税についての計算は、基本的に次の計算式で行います。
(建物の減価償却費の計算をする必要がありますが、ここでは分かりやすくするために省略します。)
譲渡所得(譲渡益)
=「売主が売った時の売買代金」-「取得費(売主が買った時の売買代金+諸経費)+譲渡費用(譲渡の際にかかった費用)」
例えば、「売主が売った時の売買代金」が2,000万円で、「売主が買った時の売買代金+諸経費」が3,000万円であれば、譲渡所得(譲渡益)がマイナスとなりますので、譲渡所得税がかからないことになります。
反対に、
例えば、「売主が売った時の売買代金」が2,000万円で、「取得費(売主が買った時の売買代金+諸経費)+譲渡費用(譲渡の際にかかった費用)」が1,000万円であれば、譲渡所得(譲渡益)がプラス1,000万円となりますので、譲渡所得税がかかることになります。
この場合、居住用の不動産を売って譲渡所得(譲渡益)があった場合、前述の「居住用不動産の譲渡所得税の特例の適用」によって、譲渡所得税がかからないことになります。ただし、譲渡所得税の申告は必要です。この申告をすることによって無税となります。
これが前述のように「親族間での売買」の場合は、「居住用不動産の譲渡所得税の特例の適用」がないことになりますので、譲渡所得税がかかることになります。(申告・納税が必要です。)
この場合、
所有期間が5年を超える場合、譲渡所得(譲渡益)1,000万円×20.315%=2,031,500円が譲渡所得税ということなります。
取得費(売主が買った時の売買代金は、「買った当時の売買契約書、領収書」でこれを証明します。「買った当時の売買契約書、領収書」がなく、取得費を証明することができない場合、売った金額の5%相当額を取得費とすることができます。
事例で、売った金額が2,000万円であれば、その5%が100万円です。
譲渡所得税は、(譲渡所得(譲渡益)2,000万円-100万円=)1,900万円×20.315%=3,859,850円が譲渡所得税ということなります。
譲渡所得税の税率
- 長期譲渡所得(所有期間:5年超)の税率
所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=合計20.315%
課税長期譲渡所得金額×20.315% - 短期譲渡所得(所有期間:5年以内)
所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%=合計39.63%
課税短期譲渡所得金額×39.63%
- 建物の取得費の計算式
建物取得費=建物購入価額-減価償却費相当額 - 減価償却費の計算式
減価償却費=建物購入価額×0.9×償却率×経過年数
(6)不動産の所有権移転登記(名義変更)
売買代金の最終決済(授受)が行われましたら、売主から買主への所有権移転登記(名義変更)をします。
この登記をご自分で申請するか、司法書士に依頼します(司法書士報酬がかかります。)。
申請の際には、登録免許税を法務局(登記所)に納めます。
登記が完了しましたら、法務局から新たに名義人となった買主の「登記識別情報通知(権利証)」、登記完了証、その他の書類を受領します。
その後、確かに登記されたことを確認するために「登記事項証明書」を登記所で取得します。
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