「相続人不存在による相続財産」の売却(売買)による所有権移転登記の方法

「相続人不存在による相続財産」の売却(売買)による所有権移転登記の方法

「相続人不存在」とは、「被相続人である財産の名義人」の相続人を、調査しても(通常、戸籍上で)相続人のあることが明らかでない場合のことをいいます。

民法(相続財産法人の成立
九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(相続財産の管理人の選任)
九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。

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「相続人以外の第三者に遺贈するという遺言書」がない場合、「相続人のあることが明らかでないかどうか」は、通常、戸籍上で次の法定相続人の調査をします。
(1)法定相続人である配偶者がいるか
(2)第1順位の相続人である子(孫→・・・)がいるか
(3)第2順位の相続人である両親(祖父母→・・・)がいるか
(4)第3順位の相続人である兄弟姉妹(甥姪)がいるか

調査結果として
(1)法定相続人である配偶者がいるか
 被相続人は、生涯、独身で結婚したことがなかった。結婚をしたことはあったが、離婚した。あるいは、すでに死亡している。
(2)第1順位の相続人である子(孫→・・・)がいるか
 被相続人は、生涯、独身で結婚したことがなかったので、子がいなかった。子がいたが、その子はすでに死亡している。
(3)第2順位の相続人である両親(祖父母→・・・)がいるか
 両親(祖父母→・・・)は、すでに死亡している。
(4)第3順位の相続人である兄弟姉妹(甥姪)がいるか
 兄弟姉妹(甥姪)はいなかった。兄弟姉妹(甥姪)はいたが、すでに死亡している。
(5)被相続人の配偶者、子、両親や兄弟姉妹(甥姪)はいたが、すでに全員が家庭裁判所の手続で相続放棄をしている。

このような状態のときに、「相続人のあることが明らかでない」、すなわち、相続人がいないことになります。このことを「相続人不存在」といいます。

「相続人不存在による相続財産」は

「相続人不存在」の場合の被相続人の財産は、家庭裁判所の手続を経て、最終的に国庫に帰属することになります。この国庫への帰属(金銭で納める)の手続をするのが相続財産管理人です。

そこで、この相続財産管理人を選任してもらうために、「被相続人の財産を管理していた人など」が利害関係人として、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申立てます。
相続財産管理人は、通常、家庭裁判所に登録している弁護士または司法書士を家庭裁判所が選任します。

相続財産管理人選任の申立て

相続財産管理人選任の申立ては、相続財産管理人(相続人不存在)の選任申立方法を参考にしてください。
家庭裁判所が申立て内容を審査し、相続財産管理人を選任(審判)します。

相続財産管理人選任の審判書(見本)は、次のとおりです。

家庭裁判所による売却許可(審判)

相続人不存在の財産は、最終的に国に帰属させることになりますので、財産が不動産の場合、これを金銭に換える必要があります。このため、相続財産管理人は、この不動産を売却する必要がありますので、不動産の売却について家庭裁判所の許可を得る必要があります。

相続財産管理人は、不動産の売却許可を家庭裁判所に申立てます。
家庭裁判所が売却の許可をする場合、審判書を相続財産管理人に交付します。
この許可審判書を、売買の所有権移転登記の添付情報として法務局に提出します。

売却許可の審判書(見本)は、次のとおりです。

「相続人不存在による相続財産」の登記(所有権登記名義人氏名変更)

「相続人不存在による相続財産」が不動産であるときは、売買による所有権移転登記の前か、同時に、「相続人不存在による相続財産」の所有権登記名義人氏名変更登記をします。この登記の申請人は、相続財産管理人です。

「相続人不存在による相続財産」の所有権登記名義人氏名変更登記については、「相続人不存在による相続財産」の登記(所有権登記名義人氏名変更)の方法を参考にしてください。

売買による所有権移転登記の方法

「相続人不存在による相続財産(不動産)」の売却(売買)による所有権移転登記の方法は、次のとおりです。通常、司法書士が代理申請します。

必要書類と印鑑

買主
(1)住民票
(2)認印

売主:相続財産管理人(弁護士の場合)
(1)相続財産管理人の選任審判書
(2)印鑑証明書(家庭裁判所発行のもの)
(3)家庭裁判所の権限外行為(不動産売却)の許可審判書
  (登記名義人の権利証は必要ありません。)
(4)評価証明書
(5)相続財産管理人の印鑑(家庭裁判所に登録しているもの)
(6)その他書類
  「相続人不存在による相続財産」の所有権登記名義人氏名変更登記を売買による所有権移転登記と同時に申請する場合:被相続人の住民票除票(または戸籍の附票)

売買による所有権移転登記申請

           登記申請書
登記の目的 所有権移転
原   因 令和〇年〇月〇日売買
権 利 者 (住所)〇〇
      (氏名)○○
      登記識別情報通知希望の有無:送付の方法による交付を希望する
義 務 者 (登記名義人住所)○○
      亡(登記名義人氏名)○○相続財産
      (住所)○○法律事務所
      亡○○相続財産管理人 弁護士○○
      登記識別情報の提供の有無: 無し
      登記識別情報を提供できない理由:売却許可審判書を添付します。
添付情報  登記原因証明情報(特例・送付) 印鑑証明情報(特例・送付)
      住所証明情報(特例・送付)   代理権限証明情報(特例・送付)
      売却許可審判書(特例・送付)  評価証明情報(特例・送付)
(以下、省略)

完了後の登記記録情報は、次のとおりです。

(以上、令和4年横浜地方法務局西湘二宮支局で登記完了)

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