錯誤による所有権更正登記

錯誤による所有権更正登記

共有持分のみを間違って登記した場合(錯誤による所有権更正登記ができる)

夫婦で不動産を買ったとき、共有持分で登記します。
そもそも共有名義で登記する場合は、共有名義の持分計算を参考にしてください。

例えば、持分を2分の1ずつで登記した後、実は、夫が持分3分の2、妻が持分3分の1だった場合です。正しい持分に直すには、どのようにしたらよいでしょうか。

共有持分を間違って登記したときは、これを正しい持分に直す必要があります。
登記される事項は、正しい内容で登記すべきだからです。
また、正しい持分で登記し直さない場合は、夫婦の一方に贈与税の問題、課税されることもあるからです。

そこで、上記の事例で、A持分2分の1、B持分2分の1で登記した後、この持分登記が間違いであったので、これをA持分3分の2、B持分3分の1に直すときは、次の登記の方法となります。
この場合、住宅ローンの抵当権が設定登記されている場合であっても同じです。(できます。)

登記の目的 所有権更正
原   因 錯誤
更正後の事項
      A持分3分の2
      B持分3分の1
権利者   A
義務者   B
必要書類・印鑑 
      A:認印
      B:権利証(登記済証または登記識別情報)、実印、印鑑証明書、登記原因証明情報
登録免許税 不動産1個につき1,000円(土地・建物であれば2,000円)

所有権更正登記をするとき、登記上の利害関係人の承諾書を添付(法務局に提出)する場合がありますが、上記の事例の場合、抵当権が設定登記されている場合であっても、この抵当権者は登記上の利害関係人とはならず、抵当権者の承諾書は不要です。
なぜなら、共有持分を更正、変えた場合であっても、抵当権は影響を受けないからです。
(以上、平成28年横浜地方法務局戸塚出張所で登記完了)

上記のように、A持分2分の1、B持分2分の1で登記した後、この持分登記が間違いであったので、これをA持分3分の2、B持分3分の1に直す錯誤による更正登記の場合、Aは持分を多く取得することになりますが、共有者A・Bの名義人が登記の前後で変動しませんので、Aには登記識別情報通知が新たに発行されません。(令和3年横浜地方法務局港北出張所においても登記識別情報通知は発行されませんでした。)
ただし、不動産登記法改正前の登記識別情報通知が発行される前では、上記の場合、持分を多く取得することになるAには、「受付年月日・受付番号の記載のある押印」で「登記済権利証」として発行されていました。

真正な登記名義の回復による持分移転(名義人に変動がある場合)

名義人に変動がある場合、「錯誤による所有権更正登記」が事実上困難となる。

抵当権が設定登記されているとき

次の事例の場合は、上記の錯誤による所有権更正登記の方法を使えません。
上記の方法であれば、登記費用が比較的低額でできますが、次の事例の場合は、少し高額となってしまいます。

事例:A持分2分の1、B持分2分の1で登記した後、実は、A一人の名義が正しい場合です。
この場合、買主名義が間違いであったので、これをA名義に直すときは、次の登記の方法となります。

登記の目的 B持分全部移転
原   因 真正な登記名義の回復
権利者   持分2分の1 A
義務者   B
必要書類・印鑑 
      A:住民票、認印
      B:権利証(登記済証または登記識別情報)、実印、印鑑証明書、
        登記原因証明情報、評価証明書
      抵当権が設定登記されている場合であっても抵当権者の承諾は不要
課税価格  移転する持分2分の1に相当する評価価格
登録免許税 移転する持分2分の1に相当する評価価格の2パーセント
      固定資産税評価価格が600万円で課税価格が300万円であれば6万円
      
ABをAのみにするように登記名義人に変動がある場合、最初の登記のように所有権更正登記を行うとき、抵当権が設定登記されている場合は、Bの持分に対して効力がある抵当権に影響を及ぼすので、抵当権者の承諾(承諾書)が必要となります。
仮に、抵当権者の承諾があったとしても、所有権更正登記をした後、これと同時に、登記されている抵当権の変更登記(効力を及ぼす変更登記)をしなければなりません。
この理由は、所有権更正登記をすることにより、B持分に対して及んでいた効力が消滅してしまうからです。
抵当権者の承諾は、所有権更正登記をすることにより、B持分に対して及んでいた効力が消滅してしまうことを承諾することを意味します。
そこで、所有権更正登記をすることにより消滅したB持分に相当する抵当権の効力を元に戻す必要があります。抵当権の効力を不動産全部に回復する必要があります。
そうでなければ、抵当権者は、所有権更正登記をすることを承諾しないからです。

そこで、所有権更正登記と同時にAが新たに取得した持分(元のB持分)に抵当権の効力を及ぼす変更登記します。この登記により、抵当権の効力が不動産全部に及び元の状態に戻ることになります。
(ここまで煩雑な登記が必要なことから登記費用も10万円以上はかかることになります。)

登記名義人に間違いがあり、登記名義人に変動がある場合、以上の登記の方法は、実務ではほとんど登記されません。
抵当権の効力を及ぼす変更登記が実務で行われるのは、所有権更正の場合とは関係なく、新たに持分を取得したときに行われます。

登記名義人に間違いがあり、登記名義人に変動がある場合、ほとんどの金融機関では、この所有権更正登記に協力してくれません。
なぜなら、金融機関にとって手続が煩雑で、難しく、理解しにくい上に、所有権更正登記に協力することは金融機関にとって金銭的なメリットがないからです。

仮に、抵当権者の承諾を得ることが可能であったとして、登記名義人に変動がある場合は、さらに、前所有者の協力を得なければなりません。
この場合、前所有者が登記の義務者となり、前所有者の権利証(もともとあったもの)、印鑑証明書、実印、登記原因証明情報も必要となり、これらを前所有者から入手することは、事実上難しく、かなりハードルが高くなります。

このような理由から、登記名義人に間違いがあり、登記名義人に変動がある場合は、「真正な登記名義の回復」を原因として持分移転登記の方法によることになります。
登記費用もかかってしまうことになります。

抵当権が設定登記されていないとき

登記名義人に間違いがあり、登記名義人に変動がある場合、抵当権が設定登記されていないときは、前所有者の協力を得る必要があります。ただし、この場合も、前所有者からの協力を得ることが難しい場合がほとんどです。

前所有者(売主)に協力してもらうことは、売買契約書の買主の記載の変更を伴い、また、 前所有者(売主) に、 前所有者の権利証(もともとあったもの)、印鑑証明書、実印の押印をしてもらうことになりますので、今更なんですか、と言われかねません。あるいは、 前所有者 と連絡がつかない場合もあります。連絡がつく場合であっても、「権利証」は処分してありません、と言われかねません。したがって、登記費用を安く済ませる「錯誤による所有権更正」登記は、事実上難しいと言えます。

前所有者の協力が得られる場合、次の登記の方法となります。

登記の目的 所有権更正
原   因 錯誤
更正後の事項
      所有者 A
権利者   A
義務者   「B」と「前所有者」
必要書類・印鑑 
      A:認印
      B:権利証 (登記済証または登記識別情報)、実印、印鑑証明書、登記原因証明情報
      前所有者:権利証(もともとあったもの)、実印、印鑑証明書、登記原因証明情報
登録免許税 不動産1個につき1,000円(土地・建物であれば2,000円)

この登記では登記費用を安く抑えることができますが、
この場合も、前所有者が登記の義務者となり、前所有者の権利証(もともとあったもの)、印鑑証明書、実印、登記原因証明情報も必要となり、これらを前所有者から入手することは、事実上難しく、かなりハードルが高くなります。

このような理由から、登記名義人に間違いがあり、登記名義人に変動がある場合は、「真正な登記名義の回復」を原因として持分移転登記の方法によることになります。
登記費用もかかってしまうことになります。

次を参考にしてください。
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