買主が共有名義で購入する場合の持分計算
持分計算の基本
買主が2名以上で不動産を購入し、名義変更登記をするときには、共有名義として登記します。
買主を2名以上で名義変更登記するときは、名義人となる買主それぞれに、持分の記載をしなければなりません。
持分の合計は、1/1、すなわち、1となるように、それぞれの持分を決めます。
持分は、分数で計算しますので、まず、分母となる金額(数字)を決めます。
分母となる金額(数字)は、基本的には、不動産の売買代金です。
(諸経費については、厳密には、持分割合で均等に負担します。場合によっては、諸経費も分母に算入した方がよい場合もあります。)
次に、分子となる金額(数字)を決めます。
分子となる金額(数字)は、名義人となる買主それぞれが負担する不動産売買代金の資金です。
買主それぞれが負担する売買代金の資金は、現金、住宅ローン、住宅資金として贈与を受けた資金などです。
これらの金額を共有名義人となる買主それぞれの分子(数字)とします。
これで、共有名義人となる買主それぞれの資金の割合が、分母・分子で表されます。
具体的な持分の計算
具体例(計算を分かりやすくするため、売買代金だけで計算してみます。)
不動産の売買代金を3000万円とします。
この売買代金のうち、共有で購入した買主Aが2600万円、買主Bが400万円を購入資金として出したとします。
これを分数に置き換えますと、次の分数になります。
買主Aの持分は、2600/3000
買主Bの持分は、 400/3000
通常、名義変更の登記をする場合には、分数をできるだけ約分します。
約分をしなくても、特に問題はありません。(ただし、数字を大きくすると、売買代金を想像される可能性があります。)
ここでは、約分をします。
買主Aの持分を約分します。持分は、86.666・・・/100
買主Bの持分を約分します。持分は、13.333・・・/100
この場合、ちょうどよく約分することができません。
このような場合は、ちょうどよい分数としてしまいます。
例えば、
買主Aの持分を86/100
買主Bの持分を14/100
とすれば、わかりやすい分数となります。(この分数では、もっと約分してもかまいません。)
ここでの問題は、買主Aにとっては持分0.666・・・/100が減少し、買主Bにとっては持分0.666・・・/100が増加したことになります。
持分の減少・増加(移動)は、税務上、買主Aから買主Bへの贈与を意味します。
この持分を金額に置き換えますと、
買主Aは、3000万円×0.666・・・/100=約20万円を買主Bに贈与したことになります。
逆に、買主Bは、3000万円×(1-0.333・・・)/100=約20万円を買主Aから贈与されたことになります。
持分の移動をするということは、金銭を贈与することと同じことです。
この20万円の贈与は、税務上、問題となりません。
なぜなら、1年間に贈与があった場合の非課税枠が110万円だからです。
110万円の範囲内の持分の移動であれば、贈与税の問題が起きないということになります。
もっとも、約分しないで、厳密な意味での持分として登記できることはいうまでもありません。(贈与がいやだという場合)
税務署からのお尋ね
以上の計算に基づいて、共有名義で登記したとします。
名義変更した登記の内容は、税務署、都道府県税事務所、市区町村に通知されます。
ですから、適当な名義や適当な持分で登記してしまいますと、後に、思わぬ税金がかかることになりかねません。
税務署からは、名義変更した内容、特に、購入資金について、買主にお尋ねが来る場合があります。(来ない場合もあります。)
この場合には、上記の持分計算をした根拠となる売買代金の資金を回答書に記載して税務署に提出します。
登記された内容と回答の内容が相違する場合には、贈与税の問題など生じてしまいます。
場合によっては、持分の変更(更正)登記をしなければならなくなる場合も生じてしまいます。
ですから、登記名義人の名義や持分は、正確に決めるようにすることはもちろん、登記した共有持分割合、購入資金の負担額を記憶、メモしておくことが必要です。
住宅ローン控除を受ける場合は、慎重に持分を計算
共有持分を計算するうえでの「売買代金の購入資金」とは
共有持分を計算するうえでの「売買代金の購入資金」とは、現在ある現金(預貯金)及び将来の資金のことをいいます。
【即金で購入する場合】
(1)現在ある現金(預貯金)
【住宅ローン金額を合わせて「売買代金の購入資金」とする場合】
(1)現在ある現金(預貯金)
(2)住宅ローン金額(将来の資金←契約書・通帳で明確に証明できる資金)
共有名義の持分計算
共有名義で登記する場合は、共有者のそれぞれの購入資金の割合で持分を計算します。
例えば、妻が手付金を100万円出し、夫がこれ以外の金額(住宅ローン金額全額も含めて1,900万円)を出した場合、共有持分は、本来、次のとおりです。
夫:100分の95(=1,900万円/2,000万円)
妻:100分の5(=100万円/2,000万円)
この共有持分を次の持分で登記してしまった場合
妻が生活費を出しているので贈与税がかからないと言われたためなど。
この理由は、甚だ疑問です。なぜなら、生活費は過去・現在・将来の資金ですが、これを証明することが甚だ困難だからです。税務署がこれで信用するとは思えません。
ですが、次のように持分を登記してしまった場合
夫:2分の1
妻:2分の1
このような持分は、本来の計算ではできない持分ですが、前述のような何らかの事情によって、このような持分で登記してしまった場合は、どうでしょうか。
夫は、現在、住宅ローン控除を残元金の2分の1についてのみ控除を受けています。これは、夫の持分が2分の1で登記されているからです。
これを本来の持分100分の95に修正することで、住宅ローン控除を100分の95で控除をお受けたいと考えています。
誤った持分を修正することで、ローン控除を本来の持分で適用できるのか。
【この場合の結論】
共有持分の修正は、錯誤による所有権更正登記という方法で可能です。
夫:2分の1
妻:2分の1
↓
夫:100分の95
妻:100分の5
(1)過去の住宅ローン控除の差額分の過誤納付分を還付請求できるのか。
(2)将来の住宅ローン控除を夫の持分100分の95で控除を受けられるのか。
東京国税局電話相談センターの回答は、次のとおりです(2023年)。
本来の持分に修正登記ができたとしても、還付請求を受けられない。
理由は、当初の申告内容(持分2分の1で住宅ローン控除を受ける)に過去も将来も拘束される。
① 過去の分について、還付請求が認められない。
② 将来の分についても、2分の1の住宅ローン控除に制限される。
国税庁の考え方は、一度確定申告(2分の1の控除)をしてしまうと、錯誤による登記であることを証明できず、贈与税逃れとみなされる可能性があるためです。(錯誤による登記であることを証明(通帳の記載、住宅ローン契約書などで)できれば、贈与税の問題はないということかもしれません。)
東京国税局電話相談センターは、
最寄りの税務署のサイトからつながるようになっています。
(例)横浜中税務署 045-651-1321 に電話し、案内で「1」を選択していただくと、東京国税局電話相談センターにつながるようになっています。
なお、税金については、税理士が専門家となります。
以上の内容は、税理士または税務署にご確認ください。
次を参考にしてください。
不動産売買登記と名義変更登記のやり直し
錯誤による所有権更正登記
真正な登記名義の回復による持分移転登記
売買登記名義人(買主単独)の誤り:やり直す方法
まとめ:共有持分の計算
以上のように、買主が共有名義で登記する場合、共有持分が本来の計算とは異なる持分で登記されてしまいますと、その後、共有持分を修正することは、手間暇(時間と費用)がかかることになります。
また、贈与税の問題や住宅ローン控除の問題もあります。
売買代金最終決済日には、買主に名義変更登記をしますので、その時までには、共有持分の計算をし、確定するようにした方がよろしいかと思います。
共有持分の計算では、住宅ローンの融資を受ける金融機関や登記を担当する司法書士のアドバイスを信用することなく、ご自身で調べるようにした方がよいでしょう。